低炭素化を促すメキシコ湾の原油流出

 

 

 原油流出による環境汚染が止まらない。米国南部ルイジアナ州沖のメキシコ湾で起きた石油掘削基地の爆発事故で、発生から50日以上が過ぎても、海底の壊れた油井から膨大な量の原油が漏れ続けている。

 

 米国史上最悪の原油流出事故は、開発を進めた英石油大手BPの経営を揺るがし、汚染拡大を止められないオバマ政権にも打撃を与えている。5年前、当時のブッシュ政権の対応のまずさが政治問題化したハリケーン災害になぞらえ、「オバマのカトリーナ」と評する声も聞こえる。

 

 これまでにオリンピックの競泳用プール100個分に相当する約150万バレル(約24万キロリットル)の油が流出した。泥状になった油が沿岸に流れ着き、エビやカニを捕る水産業や、海水浴などの観光業に深刻な影響を与えている。海中で拡散した油が海流に乗り大西洋に流出するとの予測もあり、一層の汚染が心配される。

 

 現場は水深1500メートル。BPは潜水ロボットで漏れを止めようとしたが、成果が上がらない。汚染除去などで、同社の対策費はすでに10億ドル(約900億円)を突破している。

 

 1989年にアラスカで起きた巨大タンカー座礁事故では、米石油大手エクソン(当時)は補償などに43億ドル(約4千億円)を費やした。流出量を比べると今回の事故はすでにエクソン事故の5倍にも達する。

 

 オバマ大統領は外国訪問日程を変更し、現地を3度訪れたものの、汚染拡大になすすべもない。米国民のいらだちは強く、11月の中間選挙にも影を落とし始めている。

 

 油田の開発を許可する米内務省と石油産業がなれ合い、安全規制が骨抜きだったとも指摘される。大統領は地球温暖化対策の法案で敵対する共和党の支持を得るため、事故直前に海底油田の開発を後押しする決定を下したばかり。間が悪かった。

 

 陸上で見つかる大油田が減り、ブラジルやアンゴラ沖など世界的に海底油田は深海に向かう。採掘技術は進歩したのに、事故が起きた際の復旧の手立てが追いつかない。

 

 そのことが、今回の事故ではっきりした。開発に携わる石油会社や関係国政府は、改めて十分な安全対策を用意しなければならない。

 

 今後、海底油田に対する規制の強化が進み、開発費が増えるのは避けられない。安い値段で得られる石油は、長期的に少なくなる。地球環境を守り、同時にエネルギーの安全保障を確保していくには、化石燃料になるべく頼らない低炭素社会づくりを目指すことが大切である。そんな教訓を今回の事故は示している。

 

(C)日本経済新聞 2010年6月14日