サンタさんがいないと知ったクリスマス。
そして、サンタさんなんかいらないんだと思ったクリスマス。
それは、私がまだ皆本さんは勿論、薫ちゃんとも葵ちゃんとも出会う前。記憶の中にある最初のクリスマスのことだった。
クリスマス・イブの翌朝。
目を覚ますと、枕元に凸凹なラッピングがされた包みが置いてあった。
大きさは、私と同じぐらい。
サンタさんからのプレゼントだ!
私は素直にそう信じ込んで、包装紙を急いで開いていく。
中には、当時の私と同じぐらいの大きさの、クマさんだった。
クリーム色の体。やや茶色がかった鼻と、同じ色のつぶら瞳。
私が一番、欲しかったものだ。
思わず抱き上げると、クマさんは大きいだけあって、ずっしりと重く、そして、その重さがまた嬉しくてたまらなかった。
こんな素敵なものをくれるサンタさんってどんな人なんだろう?
踊るようにクマさんと遊んでいると、ふとそんな疑問が頭をよぎった。
読んでみよう。
私の力なら、きっとサンタさんがどんな人か、分かるはずだ。
鼻をちょこんと触って、そしてクマさんに刻まれているであろう記憶の中のサンタさんを探そうとした。
でも、
「えっ?」
私の中に流れ込んできた記憶の中にいたのは、サンタさんではなかった。
そこにいたのは、
「パパ?」
ぬいぐるみをクローゼットに隠すパパだった。
そうつぶやいた瞬間、私はぬいぐるみから離れていた。
サンタさんはいない。
幼かった私にとって、その事実はとても大きなことだった。
「おはよう」
呆然としている私に、パパが朝の挨拶をしてくる。
プレゼントのことを聞いてみると、パパは、素知らぬ顔で「サンタさんからのプレゼントじゃないか?」そんなことを言い、立ち去っていく。
私はそのとき、ぬいぐるみを好きにはなれなかった。
けれど、嫌いにもなれなかった。
サンタさんだとウソを言ったパパがくれたぬいぐるみは好きになれない、でも、ぬいぐるみはとても愛らしく、私の理想といってもいいものだった。
だから、またおそるおそる触った。おそるおそる抱きしめた。
好きにも嫌いにもなれない。
そんな中途半端な気分がイヤだった。
いっそのこと嫌いになってしまいたい。
そんな風に、半ば自棄になって再びぬいぐるみに触ってみる。
読んだ記憶の中には、やはりサンタさんではなく、パパがいた。
既に知っていたことだったけど、やはりガックリしてしまう。
そろそろ離そう。そう思った瞬間だった。
流れ込んでくる記憶の場面が変わる。
ぬいぐるみ売り場で吟味している、似合っているとは言い切れないパパ。
ラッピングされたぬいぐるみを受け取って、顔をほころばせているパパ。
そして、私を起こさないようにと細心の注意を払い、ぬいぐるみを枕元に置こうとする、こわばった表情のパパ。
流れ込んでくる記憶を、ゆっくりと自分の中にしまった後、私はぬいぐるみを抱えて、リビングにいるパパの元へ走っていった。
そして、抱きつく。
「パパ、クマさんありがとう」
戸惑いと、そして、嬉しそうな感情がパパから流れ込んでくる。
「……ああ、メリークリスマス」
ぎこちなく、そう言うパパを見て、私は思った。
サンタさんなんていらないんだ、と。