朝日新聞 平成21930日水曜日 朝刊

『自民再生 処方箋を聞く』 話し手;安倍晋三元首相

 

タイトル:「保守による構造改革を」

 

聞き手:自民党はなぜここまで大敗したのでしょうか。

話:小泉政権以降、毎年政権が代わったと批判された。安倍政権も私の体調が原因で1年で終わり、大変申し訳ない。実は、大勝した05年の郵政選挙でも自民、公明両党の総得票はそれ以外の政党の総得票と近接していた。その前の参院選、衆院選では比例票で白民党は民主党を下回っていた。政権交代の圧力はずっと高まってきていた。

 

聞き手:再生をめざす党総裁選で、谷垣禎一総裁が「保守」を強調しました。

話:私の考える「保守」とは我が国の伝統や文化、歴史を大切にする。それを育んできたものに思いを致す。経済政策で言えば、小さな政府で成長重視の政策をとる。そのためには構造改革にも果敢に取り組む必要がある。日本は水を分け合って田を耕し、五穀豊穣を祈ってきた国だ。そうした国柄を踏まえた日本流市場主義を求めるべきであり、そのための成長戦略が必要だ。

保守政党としての自民党という姿をくっきりさせるのは変な純化路線ではない。本来、保守は寛容な考え方だ。

 

聞き手:総裁選では小泉構造改革を総括できませんでした。

話:小泉改革は、やらなければいけない改革だった。改革には相当の決意と突破力が必要だが、誤りもやり過ぎも起きる。私は保守政治家として修正をしたいと思った。自由主義経済にはそれを貫く理念が必要で、自由放任的な資本主義の暴走を許すと、殺伐とした社会になる。党内では経済成長を重視する人たちと伝統文化、歴史を大切にする草の根保守の人たちがやや対立している状況が続くが、一つにしていく努力をしたい。

経済においてグローバル経済という現実に対峙しながら、日本経済を成長させていく。加えて伝統文化や歴史を大切にする姿勢を一つの考え方として打ち出していくべきだ。米国でレーガン政権が誕生したときはレーガン大統領のすべてを包容する力を持った人柄でこの二つの勢力を自然にまとめていったが、その後、94年の下院中間選挙でギングリッチ氏率いる共和党が議会で多数を得ることができたのは、保守派と(あらゆる増税に反対する全米税制改革協議会の)ノーキスト氏ら自由主義経済の信奉者をドッキングさせることに成功したからだ。安倍政権ではこの二つの勢力が柱になっていたが、まさにその再現を狙ったものだった。

 

聞き手:保守政党としてどんな対立軸を打ち出しますか。

話:民主党は今回のマニフェストで史上空前のバラマキ塾の政策を打ち出した。国民に金をばらまいて豊かにすると言うけれど、ばらまく原資はどうするのか。先に配分がある社会主義的な政策だ。

自民党が結党した原点は、当時の自由党と日本民主党が一緒になって政局を安定させて二つのことをしようとした。一つは憲法を改正して真の独立を達成することと、もう一つは経済を成長させること。まずは生活だということで憲法は後回しにしてきたが、その原点を思い出すべきではないか。

 

聞き手:総裁選では派閥の弊害も指摘されました。

話:総裁選というのは権力闘争だから色々あるが、乗り越えることが大切だ。今の派閥はかつての中選挙区時代とは全く違う。切磋琢磨してお互いを助け合っていく場として活用していけばいいのではないか。   (聞き手・山下 剛)