青色のツバメ






アオは寒さに震えていた。
冬の鋭い北風は、もうアオの目の前に迫っていた。

アオは他のツバメとは違う。
他のツバメは額も喉も眩しい赤色をしているのに、アオだけは深い青色していたからだ。
色が違うということ以外は、ただのツバメと同じだった。
一人で餌を獲ることもできたし、風を切るように自由に飛びまわって春を呼ぶこともできた。
それでも、群れのツバメたちはアオを呪った。
「こんな北風色の奴がいるから、厳しい冬が来たんだ!」
「お前さえいなければ・・・。」
「冬の生贄になれ!」



「アオ、一度きりの僕の命を、大切な君のために使いたいんだ。」
アオには、アカというたったひとりの友達がいた。
群れのツバメたちの言葉はアオを深い闇へと沈めていったが、アカの優しさがあればアオには何の痛みの残らなかった。

アオとアカは二人で長い冬を越すため、そして群れのツバメたちから逃れるため、一緒に南へ旅をしてきた。
しかし、凍てつく風は激しさを増して、この南の地へも届いていた。
弱りはじめたアオをおいて、アカは二人を暖めるものを探しに出ていた。
「アカ、早く帰ってきて。」



アカは幸せだった。
大好きなアオが自分の帰りを待っていることに喜びを感じていた。
凍えるアオのために集めた枯草をくわえて、アカはアオのもとへと急いだ。

アカは他のどのツバメとも同じように、額も喉も燃えるような赤色をしていた。
群れのツバメとただ一つ違うのは、アオと友達であることだ。
アカだけはアオの心の優しさや美しさを知っていたし、アオを蔑むようなこともしなかった。
「アオ、僕には君だけだ。君と生きるために僕は生まれてきたんだよ。」



アカの目が、穏やかに輝く青色をとらえた。
「アオ!まだ僕のことが見えるかい?すぐに暖めてあげるからね。」
この南の地への旅はあまりにも長く、二人の命はお互いの存在によってようやく保たれているほどだった。
アカが命がけで集めてきた枯草で、冷えたアオの体をくるんだ。
「ありがとう、アカ。君の大きな翼も、強くて優しいまなざしも、世界を照らす赤色も、はっきりと見えるよ。」
アオは嘘をついた。
衰弱しきったアオには、白い世界に霞んでいく赤色しか見えていなかった。





ふいに、鈍いオリーブ色がすばやく空を横切った。
鈍い色はあとからあとから続いてくる。
ウグイスの大群だ。

「ツバメだ!こんなところにまだツバメがいる!」
「嫌われものの青色ツバメも一緒だぞ!」
何羽かのウグイスが、騒がしく二人をはやしたてた。
アオもアカも何も言わなかった。

黙ったままの二人を見て、一羽のウグイスがアカに言った。
「知らないようだから教えてあげる。
 そこのできそこないの青色を追いかけて、冬の悪魔がもうそこまで来ているんだ。
 立派な赤色をしたツバメたちは、とっくに他の南の地へ逃れたよ。君も早く逃げたほうがいい。
 もちろん、その死にぞこないの青色を捨ててね。」
アオが次の瞬間にも息絶えそうなのは、ウグイスたちにも感じとることができた。

アオにはもうぼんやりとした光りしか見えていなかった。
それでも耳だけははっきりと聞こえていて、ウグイスの言葉を強くかみしめていた。
ウグイスたちが立ち去り、辺りは静まり返った。











「アカ・・・。」
眠っていたように思われたアオが、そっと声をもらした。
「僕をおいて、遠くへ逃げて・・・。」
「アオ・・・、そんなこと―――」
「お願い。」






しばらくの間、二人のまわりには何の音も無かった。
冷たい風が二人に吹きつける。
そして、ゆっくりと大切に紡ぎあげられたアカの言葉が、深い眠りへ誘うようにアオを、空を満たしていく。
「夢をみたんだ。君と、春をつくる夢。
 二人で誰よりも速く空を切って、僕らが通った道のあとには菜の花が咲いて。
 そうだ、今から二人で春を呼ぼうか。
 だけど少し疲れてしまったから、その前にちょっとだけ眠ろう。
 僕の翼で君を暖めるから、ゆっくりとおやすみ。」
アオは暗い青色に染まりはじめた空ごと閉じるように、虚ろな眼を閉じた。 アカの翼がアオを包む。
「アオ、この空も、風も、太陽も、僕の翼も、すべては君のために。」









静かに静かに、日が沈んでいく。
夕暮れの空は、艶やかな紫色に染まっていた。

























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