ジジ




私は生まれたときから猫と一緒に育ってきた。
猫は落ち着いた人が好きとはよく言ったもので、
幼いころの私は家の猫たちからあまり好まれていなかった。
私は猫を追いかけたり手をとって踊ったりしてよく嫌われた。

小学生一年生か二年生のある日の下校途中、猫の鳴き声がきこえた。
一緒に下校していた友達はそっちのけで、
私はか細い声がするビニールハウスに足を踏み入れた。
ハウスの中は少し蒸し暑くて、むわむわとするハウスの壁と、
壁にくっつくように置かれた汚れた黄色っぽい大きな箱との
ほんと小さな隙間に、きれいな顔をした濃い灰トラの子猫が挟まっていた。

ジジと名乗るようになったその男の子はその日のうちに元気になり、
牛乳とチョコチップスティックが大好きで、あっと言う間に大男になった。
顔も体もおじさんくさいくせに、
鳴き声はとびきり可愛くて甘え方をよく知っていた。
寝るときはいつも私と一緒で、布団の上からあんま攻撃をし、
毎晩寄り添って一緒に眠った。
外を走るジジは鳥のように優雅で、ライオンのようにたくましい。
魔女の宅急便のジグソーパズルをしながら「この黒い子がジジだよ」
と教えたりもした。

ジジは私の相棒で、恋人で、運命的に魅かれ合った私だけの猫だった。

彼はある日から家にいなくなった。
二、三日帰ってこないことは雄猫にはよくあることだ。
けれど一週間経っても帰らず、猫の神様にジジを帰してくださいと
お願いしても彼は帰ってこなかった。
どのくらい帰ってこなかったのかよくわからない。
父が私を呼ぶ。
お父さんが真面目な顔をしている時はたいてい嫌な話だ。

私は初めて心底誰かを憎いと思った。
彼に牙を突き立てた見知らぬ犬を殴りたいと思った。
大きなジジをどれだけ大きないやらしい顔をした犬が殺したんだろう。
スリッパで遊ぶように振り回したんだろうか。ジジは苦しかったろうか。

けれどジジ、ごめんなさい。
あなたを殺したどこの誰かもわからぬ子を私はもう憎んでいません。
あなたや私とともに短い三年を過ごした愛犬バンを憎めなくてごめんなさい。
あなたの生まれ変わりだと信じておしつけている黒猫ココと
私だけ幸せになってごめんなさい。
あなたが私を愛してくれた分だけ、私もあなたを愛していました。
それ以上にココを愛していきます。ジジ、幸せになってください。
ビニールハウスを見るたび、あなたを思います。









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